Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “他愛ないひと” 〜たとえばこんな明日はいかが?
 


 そこそこ穏やかだった正月も過ぎゆきて。新しい年の到来ですねなんてな言祝ぎのご挨拶も聞かれなくなっての、睦月、一月も終盤近くなって来れば。暦の上での引き継ぎとはまた別な、現実世界なりの、春から始まる次の年度へ向けてのあれこれが、そろりそろりと動き出す。リクルートって意味合いの活動ならば、むしろ遅すぎ、内定が出てなきゃまずい時期だが、そうではなくて…例えば収支決算の追い込みとか、学生としての進学に向けての正念場とか。

 『それが一緒に並ぶのもどうかと思うが。』

 うっせぇな。まだまだ当分学生な奴には判んねぇんだよと、悪態ついたのも聞かぬまま。何をそんなに集中しているやら。恐らくは来年度の自軍の戦力分析とやらを、早々とシュミレーションしていたのだろ、小悪魔様。上級生らの受験準備のためとかで、全校短縮授業になったものの、とはいえ部活は、監督担当の先生方が手塞がりになるからという理由から、運動部は特に活動厳禁との沙汰があったとかで、

 『そんなもん、ウチじゃあ関係ねぇのによ。』

 名前だけの顧問しかいねぇのにとぶうたれながらも、要らないところでの失点がつくのはいただけないからと。そこは従順にも沙汰を守っての自主トレモード。部員たちそれぞれへノルマを与えて、さてご当人はといえば。知り合いのお兄さんとこの大型モニタ接続のPCにて、ずっとずっと、何やら…データの整理と解析とやら、延々と取っかったままでいて。
「…なあ、それっていつまでかかるんだ?」
「ああ? さあなぁ。データ待ちのカテゴリもあっからな。」
 まだ受験前の“新戦力”までリストアップ出来てる行き届きようは、だが、こいつのやったことだってんなら驚くまでもないレベルの周到さ。ただまあ、いかにもという実力選手を無理から引っ張って来るよりも、誰も気づいてないような、何かだけ極端に飛び抜けてる特化選手を、こそり発掘する方が得意な奴だから。今の今、チェックしてある連中は、かなりの高確率でそのまま戦力になっちまう可能性も高いのだろが。

 「………。」

 自分チのPCだって、そりゃあとんでもなくのカスタマイズしてるくせによ。何でまた、今日に限ってはウチので作業にと取っかかってやがるやら。白くて長い指が、間断なくキーボードを叩いてて、どこぞのプログラマーが全文タグ入力してる態ってのはこうなのかねと、思わせるほどの鮮やかさだが。今こいつがやっているのは単なる数値入力のはず。一体 何を何人分収集して来たやら、すさまじい集中にて、一瞬だって止まらぬままに続けてるポテンシャルの高さは、いつものことながら大したものだ…とは思うけど。
「そろそろ晩飯喰いに行かね?」
「ん〜? 俺、○○パンのミックスサンドでいい。」
「………オーライ。」
 ああ、あの、周りをグリルサンドみたいに縁止めしてあるやつな。飲み物はゲータレイドか? カナダドライか? 集中切れるから炭酸はノーグッドな、判ってるって。ったくよ、せめて一瞬でいいからこっち向きやがれっての。





  ◇  ◇  ◇



 結局のところ、深夜の遅くまで入力作業に打ち込んでいた誰かさん。このモードに入ってるときは、どんだけ声をかけても無駄だと判ってて。ついでに言えば、だからといって、じゃあお邪魔にならないようにと考えて…のこと、彼ひとり放っぽり出して、どこかへお出掛けでもしたもんならば。勝手なことをしやがってという、それこそ勝手極まりない理屈からお叱りを受けてもしまうので。そりゃあ大人しくも、すぐの傍らに居続けた葉柱さんだったりし。何なんでしょか、この扱いと、不可思議な拘束下の放置プレイに(こらこら)我慢を強いられたお兄さん。先に寝るのは許されたのでと、寝室に下がって眠っておれば、

 「しまった〜〜〜〜っっっ!」

 声のみならず、何を暴れているのか、どんがらがっしゃという物音で叩き起こされたのが…丁度朝の8時だったりし。

 「どした?」
 「ルイ、車出してくれ。」

 お兄さんからばっさと掛け布を剥ぎ取った暴君様は、結局徹夜をなさったらしく。ちょいと目許をしょぼつかせつつも、身体の切れへは遜色がなくて。

 “けどさすがに髪は寝てるのな。”

 もともと少々根元から立ってたクセのあった金髪へ、高校生になってからは、それへ整髪料を足すことで、妙に威嚇的な尖んがりようを加味してて。子供から少年へ、少年から青年へ。身長と同じようにお顔も縦への成長を見せつつあるおり。より鋭角的にと意識してのそんな細工が、ホントはあんまり気に入らない 元・総長さんとしては、こっちの…ちょびっと間の抜けた様子の、隙だらけな彼のほうがお気に入り。

 “言ったら最後、死んでも気を抜かねぇって構えになっちまうんだろうけどな。”

 だから言えない、お顔だって仏頂面のまま、

 「何だ、何の騒ぎだ、おい。」
 「だからっ。ついうっかりしてて寝過ごしたんだよっ!」

 お前、寝てたのか? おうよ、気がついたらな。何を威張っているのやら、薄いお胸を張っての言い切ったものの、
「だからっ、車を出す支度してくれっ!」
「ああ。」
 成程、短縮とはいえ休みじゃないから、ガッコに出る意識はあるんだなと。一応は真っ当な順番のそこへは感心しながら、クロゼットを開いてもそもそと着替えをしておれば、

 “…あれ?”

 そういや、自分の携帯が何処にもないと気がついた。寝るときの習慣で、マナーモードにしてサイドテーブルに置いてたはずが。財布と、車やこの部屋への鍵を束ねたキーケースはあるのに。シンプルな型のそれだけが行方不明であり、
「ヨーイチ、俺のケータイ知らねぇか?」
「あー? なに?」
 返事がしたのがバスルーム。ありゃりゃ、やっぱ髪は立て直すのかと、苦笑混じりに足を運んで。バスタブへシャワーカーテンの裾を引き込んで、ばしゃばしゃとシャンプー中らしいシルエットへ再びの声をかける。

 「俺のケータイ、見なかったか。」
 「…さぁな。」

 返事とともにキュッと響いたのがシャワーバルブを閉めた音。今朝も寒いからだろう、バスルームに立ち込めた湯気は物凄く。カーテンレールに引っかけられてたタオルが中へと引き込まれ、ばふばふと体を拭う気配が届く。相変わらずにカラスの行水、それでも欠かさないだけ大したものと、身内の欲目へ我ながらの苦笑を零しつつ、まま、知らないならしょうがないかと背中を向ければ、

 「………なあ、ルイ。」

 カーテンの向こうからの声がして。んん?と引き留められたそのまま、肩越しに振り返りかけたと同時、カーテンの隙間から伸びて来た手が、こっちの肘あたりを掴んで引いた。身長は随分と追いつかれつつあるけれど、体力や膂力にはまだまだ大きな開きがあるから。そう簡単には引かれ負けなんてしないが、ただ。浴室で、相手は濡れてる。すべって転んだら偉いことになるのは目に見えてたし、事実、こっちは動かぬまま向こうこそがカーテンから顔を出す格好になったので、

 「…っと。」

 腰にタオルを巻いただけという恰好のまま、前へつんのめって来た真っ白い肢体。慌てて懐ろへ、受け止めての迎え入れれば、

 「…ごめん。////////

 濡れた髪が服を直撃したことへ、殊勝にも謝ってから。見上げて来た顔が…何とも艶っぽいったらありゃしない。ああ、セッケンのいい匂いがすんじゃんか。昨夜は振りやがったくせに、朝っぱらから誘ってんじゃねぇよ。//////// 第一、この顔でガッコ行くのか、お前。そんな不届きなこと、父上や歯医者が許してもだな………、


  「…あんな? ルイのケータイは俺が預かってる。」

   はい?

  「今日、一番最初に口利くの、絶対に俺にしたかったから。」

   何でまた?

  「だから…昨日だってずっと、ルイに張りついてたんだしよ。」

   ええっ? だってあれはお前、必要な作業に集中してただけなんじゃあ…?

  「案の定、銀とか皆からのメール、届きまくりになってたしよ。」

   えっと、それってもしかして………。

  「今日は…俺の傍から絶対離さねぇかんな。/////////

   いやあの、それって順番が逆なんじゃあ?
   お前が離れずにいてくれるって言い回しをするのが普通だろうよ。
   だから、あんまし引っ張んなって。
   足元濡れてんだろーが…って………え?



 いかついお顔へ届けとばかり、雄々しい懐ろに身を寄せの、ちょっとだけ背伸びしての ふわり。湯気をまとったライムの匂いと一緒に近づいて来た白いお顔が、文句を連ねかけてたお口を塞いで。
“え? え? え?”
 柔らかな感触がしっとり吸いついたそのまま…数秒ほど。直立不動とはまさにこのこと、葉柱のお兄さんが身動きするのを忘れたまんまとなったのは、

 “…くっそ。合わせ目ちろりって舐めるとは、一体どこで覚えやがった。////////

 おおう、日頃はやったことないことをされたからだったですか。そうですよね、キスまでだったら小学校のころから既に…ねぇvv こんのヤロとばかり、照れ隠しに怒鳴ろうとしかかったものの、

 「♪♪♪」

 相手は素早くカーテンの中へと戻っており、鼻歌が出ている辺りは余裕綽々の態でもあるようで。


  ―― あんなあんな、中華街の◇◇亭ってトコで、
      メグさんとかツンさんとかが一席構えてくれるんだと。
      それが夕方の5時からだから、
      その前に川崎の▽▽▽まで行こうな?
      ホントは昨夜っから泊まるつもりでいたんだのによ、
      何の行事や見本市とかが重なってたやら、部屋が取れなくてサ。


 それがあんまり癪だったから、こうなったらと前日からルイんこと独占してた。だって、放っておいたら、お誘い来てたのへ誰彼かまわず呼ばれて行ってただろうしよ。言いたい放題したあげく、

  「……………あ。」

 今頃になって肝心なことを思い出したらしく。しゃっと小気味のいい音を立てて開かれたカーテンの向こう、ガウン代わりのぶかぶかなワイシャツを羽織った姿が現れると、バスタブの縁をひょひょいとまたいでの歩み寄って来。セット前のしんなりした頭のまんまで にひゃっと微笑って………。




   誕生日、おめでとな? ルイ。

     そっか、今日って25日だったのかぁ………。





  〜 終わっとけ 〜  08.1.22.


  *2,3日ほどフライイングしとりますが、どうかご容赦を。
   だって絶対、当日とかだと忘れるに決まってるって気がしてまして。
   高校生のヨウイチくんは、
   さぞかし魅惑的な男の子に育っているんでしょうね。
   鼻面引っ張り回されても怒る気が起きないほどvv
   でもでも、本当に好きな人へだけは恥をかかせちゃなんねという一線、
   絶対に曲げない子でもあると思いますので、
   ルイさん、ますますしっかりせんといかんぞ、ねぇ?
(苦笑)


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